トールキンとの出会いのきっかけは、ロード・オブ・ザ・リングだった。
あの指輪は、多くの人々を魅了したが、例に漏れず私もその一人となった。
もし手に入るのなら欲しい、と本気で思っていた。
当然それは叶わなかったのだが、その埋めがたい思いを抱えたまま、私は原作である指輪物語の深い世界へと足を踏み入れた。
考察本を集め、映像作品を探し、世界を知ろうとすること自体が、いつしか目的になっていった。
その先にあったのが、シルマリルの物語である。
新聞の片隅に新訂版刊行の広告を見つけ、休日に書店をいくつも巡った日のことを、今でも覚えている。
初めてその本を手にしたとき、胸が高鳴った。
そこに広がっていたのは、「指輪物語」をはるかに超える時間と歴史だったからだ。
創世から始まるアルダの物語。種族の誕生、誓い、戦乱、破滅。
神話のようでありながら、神話以上に緻密で、容赦がなかった。
当時の私は、ただ圧倒されるだけだった。
だが今になって振り返ると、あの物語に早くから触れてしまったこと自体に、少し興奮を伴う恐ろしさを覚える。
そこにあったのは、優しい神話ではなかった。
高潔であるはずの者が誓いによって縛られ、美しいものが争いの火種となり、秩序の中にある存在さえも、揺らぎを孕んでいる。
その構図は、今の私には、どこかひりつくものがある。
それでも、圧倒されるだけだった当時の私は、この物語から離れなかった。
むしろ、その深淵を覗き込むように、何度もページを開いてきた。
おそらくこのとき、私はまだ入り口に立ったばかりだったのだろう。
語り部になるには、この苛烈な世界と向き合い続けなければならない。
その覚悟が、自分にあったのかどうかは、まだわからない。



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