もし、あの悲劇がなかったなら。マエズロスは、どんな未来を見ていただろうか。
赤い髪は母譲り、そして冷静に物事を見極めるのもまた母譲り、かもしれない。
では、マエズロスが父に似たのはどこなのか。
おそらく、その豪胆さにあるだろう。
そして何より、彼もまた、彼の父と同じように自分の父を愛していた。
故に、彼は父とともに進んだ。
いや、進まずにはいられなかった、と言うべきか。
しかし、それもまた違うのではないか、とこの頃思う。
マエズロスにとって、何が最も大事だったのか。
権力か。それとも、名声か。
いや、そんなことはどうでも良かったのではないか。
彼が見ていたものは、やはり家族だったのだろう。
両親と弟達、仲のよい従兄弟達に囲まれ、平穏に幸せに暮らすこと。
それが彼のたっての願いだったのでは。
シルマリルと父親を奪われたフェアノール。
その悲しみと憎しみの深さは、これまで語ってきたとおりである。
その姿を目の当たりにしたマエズロスは、これまで当たり前のようにあった家族の幸せは脆くも消え去ったのだと、絶望したことだろう。
だから、シルマリル奪還の旅に加わったのではないか。
家族の幸せを取り戻すために。
そう私に考えさせてくれたエピソードがある。
それは、マエズロスが弟・マグロールとともに幼かったエルロンド・エルロスの兄弟を慈しんだことだ。
もしかすると、彼らの両親を殺した償いだったかもしれない。
しかし、もしそうならば、まるで自分の子どものように育てようとするだろうか。
もちろん、罪悪感がなかったとは言い切れない。
だが、それだけでは説明できない温かさを、私はそこに感じる。
そう、家族としての温かさを。
この当時、二人にはもう家族は残っていなかった。
父も兄弟も従兄弟も、亡くなったり散り散りになったり。
だからこそ、自分の思いをエルロンド達に注いだとすれば・・・。
しかし、その思いもむなしく、マエズロスは罪を重ねてしまった。
ようやく取り戻したシルマリルは、彼の手を焼き、彼を絶望に突き落とした。
彼の最期は、あまりにも凄惨で、あまりにも悲しいものだったと、私は感じる。
それは、彼の描いていた未来が二度と叶うことはないと思いつつも、なんとか追い縋ろうとした足掻きのようにも見えた。


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