フロドの話があるなら、必ず彼のことも思い出す。いや思い出さなければならない。
フロドの庭師、サムワイズ・ギャムジー。
彼こそが「指輪物語」の主役、英雄と言っても過言ではないと言い切る人達もいる。
そう思わざるを得ないのは、彼の勇敢さと、ひたむきに使命を果たそうとする姿にある。
たとえ一度は指輪を手にしていたとしても、それを決して自分のものにしようとしなかった。
この強さはどこから来るだろうか。
もしかすると、フロドの最後の行いを追及できる“聖人君子”とは、サムのことだろうか。
いや、彼とて聖人君子ではない。
彼がここまで成し遂げられたのは、彼が本当に洗練された心の持ち主だったからではない。
彼はフロドに仕える庭師として、当然のことをしたまでだ。
時に叱咤激励し、主人の使命を果たすべく、横で支え続けただけだった。
しかし、ただそれだけだろうか。いや、私はもっと大きなものがサムを支えていたと思う。
彼にはただひとつの願いがあった。「ホビット庄(シャイア)に帰る」という願いが。
彼はいつだって故郷のことを語っていた。
滅びの山に向かう途中でぼろぼろになりながらも。もう帰れる保証もどこにもないのに。
それでも帰りたかった。あの穏やかで、大好きなロージーのいる、素晴らしいふるさとに。
指輪の欲望にも屈しなかったサムが、ただひとつ欲していたのは、暖かい故郷のぬくもりだけだったのだ。
だから、物語を締めくくる、彼のあの言葉。
「さあ、戻ってきただよ」
『指輪物語 王の帰還』「灰色港」より
これは、彼のささやかな願いがあふれ出した、最高の言葉なのである。




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