彼はいつしか本来の名で呼ばれなくなった。
作中でも、それ以前と以後ではまったく捉え方が変わってしまう。
力にて立つ者、は、黒き敵、となった。
モルゴスの名は、フェアノールが付けた。
シルマリルを奪われたことの憎しみが、どれほど強かったかを想像させられる。
容赦なく“敵”と認識される彼。
事実、彼は暗闇を操ることで誰からも恐れられる存在になった。
しかし、わたしはそれでも、“メルコール”の名を忘れたくない。
彼は全アイヌルの中でも最も強大な力を有していた。
ゆえに、イルーヴァタールのもたらした運命に翻弄された者、とも言えないだろうか。
“不滅の炎”を外に求めたがために、それを得られず、イルーヴァタールの意にそぐわぬことを考えただけのこと。
考え方が他と違ったのだ。
でも、その違いは大きなもののように見えて、その始まりは、ごくわずかなズレだったのかもしれない。
この現代でさえ、多くの人達がそれぞれの価値観や考えを抱えて生きている。
その価値観が大多数と異なれば、時として排除されることもある。
メルコールもこうだったのではないだろうか。
人と違うというだけで、その存在はやがて一つの側面で語られるようになる。
とりわけ、その影響が大きければ大きいほど、残るのは“歪み”の方なのかもしれない。
けれど、その歪みだけが、彼のすべてだったのだろうか。
だから私は、“黒き敵”とは呼ばない。
あえて、“メルコール”と呼ぶ。


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